推理好きの謎の居酒屋店員「よしこ」

空素

2018年02月17日 19:02



 彼女、中込由佳のデビューはコダ社長と同じ「R」。
役柄は主人公アールの未来を予言する謎の占い師「ミネルバ様」。重要な役どころだ。
周囲の心配をよそに、結果は大成功。無秩序な地下街の路地裏に、ひときわ怪しい雰囲気を醸し出す占いの館の主を、見事に表現してくれた。

 彼女は演劇経験ゼロ。
育児の手もようやく一段落した主婦。台詞の言い回しに妙な節が付いていて、
素人を絵に描いたような中年新人団員。ここから中込由佳のもうひとつの人生(ストーリー)が始まった。

 翌年の「刑事ドラマ episode1」では、トンネルの出口に辿り着けずもがいた試練の時代。
言っておくが、「R」での成功には秘密がある。
第一に、彼女の横にゆか里を配したことだ。ミネルバの妹「ダイアナ」だ。全てゆか里が語りかけ、突っ込み、拾ってくれる。この恩恵にあずかった新人は多数いる。
そしてもうひとつは、「ヘタウマ」である。新人のその時にしか出来ない独特な雰囲気を役柄に託す。
これが上手くいった時には、演出家は人知れず小さくガッツポーズをするのだ。

 いつまで続くのかと思ったトンネルは、翌年あっさりと出口を迎える。
これも、やはり「we are earthling」だった。稽古終盤に彼女が持ち込んだアドリブに、出演者が笑いをこらえられない。勿論、本番での彼女の躍動は言うまでもない。3年目の中年新人団員は、
“空素”の主力メンバーとなった。

 また前置きが長くなってしまった。
今回の彼女の役どころは、美咲刑事がいつものように酔っぱらった状況の中で、事件の小さな矛盾から真相に辿り着く《ヒント》を得る場面。このシーンのキーパーソン、外国人訛りの居酒屋店員である。はっきり言ってこれは難しい役だ。今、彼女はそこにいる。

 多分に漏れず、彼女もこの役には苦戦したはずだ。実際、外国人訛りに惑わされるな。逆に、そこを無駄にしたら意味がない。この葛藤が悩みのスパイラルになるのだ。
 いつしか「R」から7年の歳月が経っていた。彼女は自力でスパイラルを超えて来た。
愛娘の前で何度も何度も練習したのか・・・?通勤の車の中で台詞を言い続けたのか・・・?
彼女の稽古場以外での努力は想像に難くない。

 今や《癖がスゴイ》役は中込由佳の独壇場である。これは“空素”に欠かせないキャラだ。

 生活の中に「演劇」があると、人生は2倍になる。始めるのに早い遅いはないのだ。
中込由佳のストーリーは想像の斜め上を行く。


 by モンキリ王子

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