2017年11月17日

刑事ドラマ ~episode2~ 「煉瓦堂」 予約開始!



 今年の“空素”は、恒例の《drink & food & 演劇》スタイルの公演です。
会場はRESTO BAR 「WEST」。
 入場料は3000円。ワンドリンク付きです。
ドリンクは、アルコールは1杯ですが、ソフトドリンクはドリンクバーで飲み放題。
お食事はWEST自慢のパスタ、ピザ、カレーetc をお楽しみください。

 上演までの間には団員によるミニバラエティーと小芝居をご覧頂きます。
本編とはまた違った団員の素顔が見られるかもしれません。

 綺麗なホールで観る演劇も悪くないけど、もっともっと気軽に劇を楽しんでほしい。
これが“空素”の思いです。

 公演は、12月2日(土)18:00開場、19:00開演。 3日(日)13:00開場、14:00開演の2回。
いずれも40席限定ですので、チケット予約はお早めに。
 予約はFAXが一番お手軽です。【026-226-8033】
お名前・住所・電話番号・希望公演日・枚数をお知らせください。チケットを郵送致します。
料金は当日受付にて精算致します。

 作品の見どころやキャスト情報は、今後出来る限り更新していきますのでお楽しみに。

 さて、そうこう言っているうちに当日まであと2週間。
“空素”流刑事ドラマは、爆笑の中からさりげなくサスペンスが現れ、
やがて哀しくも愛おしい人間ドラマを紡いでゆく・・・極上のクライムストーリーです。
  乞うご期待!

 by icon06モンキリ王子




  

2017年10月20日

2017 劇団“空素” 始動!

 大変お待たせいたしました。
劇団“空素”、新作の上演が決定しました。




 2011年に上演し、当時斬新な演出、舞台構成で好評を博した、
「刑事ドラマ」~刑事美咲の逆転推理~真相は心の闇の中に・・・ の続編です。

 2時間ドラマを舞台で表現する。しかも1時間で・・・
当時演劇関係者からは、「何で2時間ドラマを演劇で真似しなくちゃいけないんだ」
「しかもそれを1時間でやるんなら、すでに2時間ドラマじゃないだろう」と、
痛烈なご意見も頂戴しましたが、私は堂々とお答えしました。

「やってみたかったんだ・・・」 と。

 結果は、ご覧になった皆様がよくご存じのとおりです。

 さて、今回の、「刑事ドラマ」 ~ episode 2 ~ 前回にも増して見どころが満載。

見どころ① 
 “空素”はいつも、劇は生でなくちゃ、新鮮でなくちゃ意味がない・・・と思っています。
 今回の事件もタイムリーな、今が旬の事件が美咲刑事に襲い掛かります。
 美咲刑事の推理は今回も冴えわたっていますよ!

見どころ②
 今回“空素”は、新人がずいぶん加入しました。
 “空素”流の演技指導で、現在猛特訓中。ハンパ無い個性の先輩たちに、
 果敢に立ち向かっています。
 今、未来の“空素”の看板が育ち始めています。

見どころ③
 今が旬・・・とは言え、やっぱり“空素”は忘れちゃいけない義理人情、人としての
 「仁義」ってものを描き続けているのです。
 親と子、友と友、人と人。・・・男と女は・・・未だ勉強中ですが。
 大人も子供も、心に残る物語が、“空素”の劇にはいつもあるのです。


 さて、近日中にポスター、チラシが出来上がります。
俳優陣もようやくエンジンがかかってきました。いい練習を重ねています。
私も日々手ごたえを感じています。面白くなりそうだ・・・

 そっと公演日程をお知らせしておきましょう。

11月12日(日) 時間未定 飯山市文化交流館なちゅら
12月 2日(土) 時間未定 WEST 
12月 3日(日) 時間未定 WEST

近日詳細告知! 乞うご期待!

 by icon06 モンキリ王子


これからのブログにご注目!
  

Posted by 空素 at 21:04Comments(0)公演情報

2016年09月01日

銀鼠奇譚 ⑯ 快盗銀鼠 其の参


 何だかんだとゴチャゴチャ書いていたら長くなってしまったので、今回は締めたいと思う。



 私は姫鼠の兄さんが塀の中で仕入れた情報から、伝説のお宝を狙うこととなる。
ところが七色鼠の姐さんは、石川一家アヤセが画策するID市場計画を阻止するため、この私に協力を求めてきた。実に迷惑な話である。


 鼠一門と石川一家には、江戸時代の昔から何かとこみいった経緯があるようだ。鼠の姐さん方に言わせれば、石川一家、特に先代の孫娘アヤセは、仁義を欠いた質の悪い盗人だと、苦々しく思っている。
 アヤセはまさに現代の若い女性。彼女にとってお祖父さんたちの言う「盗人の仁義」とやらは、理不尽で面倒臭いだけの昔話なのだろう。石川一家に限らず鼠一門にしても、唯一の新人は還暦の私なのだから、若いアヤセには無理もない話なのだろうと想像はつく。
 しかし、年寄りの話もいつかちゃんと聞くタイミングは必要なので、そこを見逃すと人間としての道を踏み外してしまうものだ。案の定、アヤセの画策するID市場は同じ犯罪といっても度を越していた。鼠の姐さん方ならずとも放ってはおけない事態である。銀鼠の腕を買ってくれている七色鼠の姐さんが私に協力を求めてきた。
 さぁ、こうなると満を侍して主人公の出番である・・・普通なら。

 忘れてはいけない。「快盗銀鼠」の主人公は、融通の効かない、不器用で、面白味のないオッサンである。ヒーローになる格好のチャンスを、自らあえなく断ってしまう。
 物語というものは不思議なもので、脚本家はここで調子に乗って私をヒーローにするという安直な道を選ばなかったし、当の私もそれは選ばなかっただろう。私は物語の中のキャラクターなのだ。キャラは脚本家の思うがまま・・・しかし、私たちにも人格がある。それに背いた脚本では、動きも鈍くなるというものだ。
 私はたった一人、勝手に例のお宝探索に一心不乱。ID市場は進行中。姐さん方は義によってアヤセ成敗に動き出す。キャラは各々目的に向かって躍動するのだ。
 ここが「快盗銀鼠」のクライマックスとなる。

 定年退職を迎えた還暦のオッサンが、第二の人生をどう生きたらいいのか。それは今や老後ではない。短くも儚くもないのだ。そこに待っているのは文字通り第二の人生、第二の世界である。それまでの世界観を全て捨てろとは思わない。しかし、新たな世界に踏み込み、立ち向かう真摯な気持ちがなくては、こんな面白い、刺激的な感動は得られないのではないか。私はそう思うのです。
・・・いや、そうでした。


 いやはや、長くなってしまいましたが、「銀鼠奇譚」もようやく終わりそうです。
言いたいことはただ一つ。“空素”の劇はキャラクターが創ってくれているということ。“空素”の愛すべきメンバーは皆不動のキャラを持ちながら、作品ごとに物語を盛り上げる全く新しい表情を見せてくれます。

 さて、「快盗銀鼠」は、10月16日、飯山市の「なちゅら」での再演が決定しています。
もう観た方も、まだ観ていない方も、この「銀鼠奇譚」を読んでからご覧いただければ、また新しい面白さを発見出来るのではないでしょうか。
 ただ今、お盆休みも終わり、練習再開いたしました。長野市芸術館公演以上の、笑いと感動をお伝えできるよう、頑張っております。

そんなこんなで、乞うご期待!

 byicon06 モンキリ王子







  

2016年08月15日

銀鼠奇譚 ⑮ 快盗銀鼠 其の弐


 前回は私、銀鼠が定年後の第二の人生に「泥棒」という、突拍子もない道を選んだという話を書いたが、今回は私と鼠一門について書いてみよう。


 先ずはっきりさせておきたいのは、私にとって泥棒、盗人は趣味であるということ。これに関しては、鼠一門の姐さん方にしてみれば、あまり面白くないらしい。まぁ、人生を賭けて守り続けてきた盗人の道を、「老後の楽しみ」と言われて面白い訳がない。しかし、私もそこだけは曲げられないのだ。


 私は一切金品は盗まない。入った家の「お宝」を狙うのだ。家のお宝とは、その家に無くてはならないもの。高価な物という意味ではない。しかも、お宝は必ず返却する。記念写真に収めて「銀鼠参上」の札を残し、退散するのだ。それともう一つ私が狙わないのが、下着類とかエロイもの。何だか別の犯罪になってしまいそうだし、折角努力して身につけた盗人の腕と、一門の名に泥を塗るような気がするからだ。まぁそれはいいとして・・・私にとっての盗み(仕事)はアマチュア。あくまでも趣味、ということである。

 私の記念すべき泥棒デビューの家が、伝統ある盗人一門「大黒鼠の親分」の家だった・・・ここからこのドラマは始まる。
 当然ながら、私はこの時初めて盗人一門というものがあることを知ったのである。大黒鼠、柳鼠、姫鼠の姐さん方は、時に怖く、時に優しく、時に熱く、自分たちの生き方を私に語りかけてくる。最初は驚きの連続。しかし、徐々に納得させられ、ある意味尊敬に値するとも思えてくるのだ。・・・と同時に、やがて消えゆくであろう一門の存在が、私には物哀しくも愛おしく感じられたのだった。

 漠然と感じている今の世の中に対する違和感。今は、全ての価値が合理的で公平で結果第一に偏重しているかに見える。ほんの30年ほど前には、やたらと伝統だの義理だの面子だのと口にし、面倒臭くて理不尽な世界がまだまだ多かったように思う。世の中はそんな風潮を排除しようとしてきた30年である。私だって当時そんな世界が好きではなかったが、この歳になってふと周りを見てみると、そんな理不尽な世界が、何だか懐かしく思えてくるのだ。鼠一門は、その理不尽な世界そのものである。
 盗人一門以外に、まだまだ残っている理不尽な世界は確かにある。それは伝統文化、伝統芸能の中。それにスポーツや芸術の世界の中にも残っている。そう考えると、私が第二の人生に泥棒の道を見つけたのは、あながち不自然ではないと思えるし、それが趣味としてというのも自然の流れだと思う。還暦で始めてトップランナーになろうとは思わないが、道を極めたいと努力してみるだけの時間は残っているのではないだろうか。

 鼠一門の姐さん方も、趣味と言われて面白くはないものの、今の若者が一門に新規就職してくるとは思ってもいない。それが第二の人生であろうが、アマチュアであろうが、盗人としての筋とか仁義、心意気を伝えていきたい気持ちは強いのだ。この面倒臭さが私は嫌いではない。
 鼠の姐さん方の中で、唯一私が苦手としているのが、七色鼠の姐さんである。この人は正義感が強いと言うのか、危ない橋をあえて渡るのが好きなのか、どうも私とは気が合わないようだ。
私は私のペースでコツコツと盗人の腕を磨いていきたいのだが、何かと事件に引っ張り出そうとする。まぁ、七色鼠の姐さんがいないと物語が地味で、ドラマとして成り立たないのだから仕方がない。

ちょっと長くなってしまったので、続きは次回にしましょう。
2回で終わるかと思ったのに・・・

 byicon06 モンキリ王子




  

2016年08月03日

銀鼠奇譚 ⑭ 快盗銀鼠 其の壱


 銀鼠奇譚と題して、「快盗銀鼠」の登場人物を紹介してきたが、主人公の紹介が最後になってしまった。まぁ、主人公というのはそんなに面白味のある文面にはならないものだ。
何しろあまり詳しく書いてしまうと、ネタバレのオンパレードとなってしまう。


 この台本に銀鼠の名前はない。台本上は「私」と書いている。
ト書きでも、「私が下手に歩いたら・・・」とか、「私が下手に叫んだら・・・」になっている。
私も初めての試みだったのだが、書いていて紛らわしいので2度とやらないと決めた。


 私の祖父が亡くなったのは97歳だった。(ここでいう私は本当の私。モンキリ王子のこと)祖父が定年を迎えたのが55歳。第二の人生は、実に42年間あったのだ。現役サラリーマン生活の期間を優に超えている。私も現在57歳。第二の人生という言葉が視野に入ってきている。団塊の世代は私の一回りほど上の世代である。還暦を過ぎ、泥棒の道に入った先輩はいただろうか。

 私は不器用な男だと周りから言われている。(ここでの私とは銀鼠のこと)しかし、これは子供の頃からではない。子供の頃の私は、工作にしろ、生徒会の作業にしろ、人並み以上に綺麗に仕上げて、むしろ褒められていた。不器用だと言われ始めたのは大人になってから。それも中年に差し掛かってからだったように思う。
 サラリーマンに限らず、人は自分の能力をアピールすることで必ず敵を増やすことになる。いつの間にか自然に身に付いたものなのか?或いは、いつしかそんな自分を作り始めたのか?今となっては覚えてもいないが、私は敵を作らない生き方を選んでいた。しかも私自身も、地味で不器用な人間だと思い込んでいる。世にはこんな男性が意外と多いのではないだろうか。
 
 そんな私も、モンキリ王子のお祖父さんの例によると、後37年間というセカンドライフが与えられているようだ。気が遠くなりそうである。縁側に座って盆栽をいじりながらの37年は正直キツイ。当然、身体も頭も今のままという訳にはいかない。全てのグラフは右肩下がり、上がるのは血圧ぐらいなものだろう。
 そこで私が選んだのは「泥棒の道」である。誰に聴いても口を揃えて無謀だと言うだろう。ところが誰ひとりとして反対しなかった。誰にも話せないのだから当たり前なのだが・・・実はこれが、私には天職であったかのようにピッタリだったのである。全ての作業が細かく地味で失敗が許されない。何と言っても目立たないのが実に良い。目立つのは捕まった時だ。捕まらなければ、それはどこかの誰かであって、私だとは誰も知らない。言っておくが「銀鼠参上」は、アピールではない。あくまでも礼儀なのだと私は解釈している。

 些細なキッカケや、幸運な出逢いに恵まれたとは言え、自分にピッタリの第二の人生を見つけた私は、毎日が刺激的でこの上なく充実している。
 このまま地味で目立たぬ泥棒という趣味を、密かに地道に楽しもうと考えていた私だったが、そこはドラマである。否応なしに重大事件に巻き込まれていく銀鼠。
 その辺は、次回に持ち越そうかと思う。

 byicon06 モンキリ王子



   

2016年07月26日

銀鼠奇譚 ⑬ 妻


 「快盗銀鼠」は、たった一人を除いては全員犯罪者である。
そのたった一人とは・・・銀鼠の妻である。


 鼠一門に石川一家。極道に悪徳官僚。盗人とつながっている警察署長も堅気とは言えない。
このドラマの中で純粋な堅気の人間は、銀鼠の妻だけなのだ。


 荒唐無稽なファンタジーは、どこから始まっているのかが、実は非常に大切なのだ。
定年退職後の第二の人生に泥棒になろうと思った男の妻は一体どんな女性なのか。絶対に個性的であってはならない。普通の家庭を絵に描いたような主婦であってほしい。銀鼠とて始まりはどこにでもいるオッサンなのだ。ここから始まるファンタジーで、主人公である銀鼠は盗人の世界でどんどんと変貌を遂げていく。一方、妻はというと全く変わらず平然と暮らしているのだ。

 夜な夜な家を抜け出し盗人稼業に勤しむ夫を、長年ともに暮らしている妻が気付かないのか?まぁ、素人の主婦に感づかれるようでは、一人前の盗人とは言えないだろう。いや、もしかしたら薄々感づいているのかも・・・感づいていながら知らんぷりをしている・・・既に夫の行動など興味がないのかも・・・その辺はご想像にお任せしよう。と言うより、そこが観客それぞれの夫婦感によって違うのではないだろうか。
 どこにでもあるような家庭のある時期。夫の定年。そしてその後の人生の新たな目標。ここがこのドラマの始まりである。そこには毎日見慣れた我が家の風景のようになった妻の存在が欠かせないのである。

 これまでご紹介してきた「快盗銀鼠」の登場人物、誰もが知らない銀鼠の素顔は、この妻の存在を通して見えてくるのかもしれない。普通の夫婦とはそんなものなのだと思うのだが。
 
 何もしないで普通にしていて欲しい。一番難しい要求かもしれないがそれがこの妻の役割なのだ。
飯山でも、この妻は何もしない。そこを見て欲しい。

 byicon06 モンキリ王子




  

2016年07月26日

銀鼠奇譚 ⑫ 警察署長


 さて、まだまだ渋い脇役が残っています。
この役も、登場時間は僅かなもののドラマの設定に欠かせない役。



 江戸時代より続く盗人一門は、子分たちを束ねる上でも、また大仕事を綺麗に仕上げる上でも、多くの人脈を必要とし守ってきた。
 敵であるはずの警察との繋がりは、まさに切っても切れないものであった。


 劇中5分ほどのシーンだが、大黒鼠の姐さんと柳鼠の姐さんが、警察署長を訪ねて行くというシーンがある。鼠一門の世界観というか、歴史を感じさせるシーンなのだが、ここもまたノスタルジックな世界と現実の事件を橋渡しする重要な場面となっている。

 登場する警察署長はキャリアではない、いわゆる叩き上げの所長である。所轄の所長を最後に定年を迎える彼が、街のお巡りさんとして勤め始めたのは、昭和50年前後だろう。その頃は時代が大きく変化し、盗人一門をはじめ古き良き時代の様々なものが消え始め、世間はこぞって新しいものを求めていた。
 新米巡査の彼が警察署から出て来ると、署員専用口(裏口)にハイヤーが横付けされ、その頃でもほとんど見かけなくなった和服姿の紳士がサッと降り立ち、建物内に消えていった。誰に訊いてもそれが誰なのか教えてくれない。その時の和服の紳士こそ、鼠一門を率いる大黒鼠の親分であったことを知ったのは、彼が所轄の次長(副所長)になってからのことだった。いや、正確に言うと、盗人一門と警察とは明治以前から何かとつながりがあるとは噂で聞いたことがあった。したがって上司からそのことを告げられたのが、次長の任に就いた時なのである。
 勿論警察が犯罪に加担するなどということはないが、重大事件で手詰まった時など、一門の持つ情報は大きな力になる。その見返りに関しては、時々の所長の裁量・・・といったところだろうか。

 鼠一門がいつしか消えようとしている現在、この署長の次の世代がこれまで通り一門に一目も二目も置くとは限らない。科学捜査、捜査の透明性などと言われる時代である。
 たった5分のシーンだが、こんな思いを感じてもらえれば・・・
是非、飯山でご覧いただきたい。

 byicon06 モンキリ王子


  

2016年07月21日

銀鼠奇譚 ⑪ 有賀潤三


 2年前、「新・ショットガン」でモデルガンをこれでもかとブッ放した“空素”が、昨年の「商店街の救世主」では、笑いと涙の人情ドラマを上演している。その時スタッフが私に「今年はヤクザは出ないんですね」と囁いた。満面の笑みを浮かべて私は答えた。「大丈夫です、来年は出ますから・・・」


 さぁ、悪役軍団の最後を飾るのはこの男。広域暴力団関東狼仁会有賀組組長、有賀潤三である。


 悪役の役作りにはちょっとうるさい私も、今回の有賀潤三は本当に楽しんで創っていた。皆さんお察しの通り、銀鼠や七色鼠に退治される悪役は、時代劇の悪代官や地回りヤクザの親分の雰囲気がピッタリなのだ。私の、そして観客の期待通りに有賀組長は大暴れしてくれた。

 根が悪い。根が悪くないと有賀潤三は務まらない。太っ腹である。竹を割ったような性格である。冗談が好きな明るい性格である。笑顔が人懐っこい・・・自分はこんな人間だと言いながら、根が悪いので誰からも好かれない。気持ちのいい悪役である。
 有賀組長は武闘派である。経済ヤクザが横行するこのご時世、暴力だけでここまで上り詰めた武闘派の鏡である。若い頃カチコミで大暴れし、銃弾を15発体に浴びながら敵対するヤクザを全滅させたという。心肺停止で警察病院に搬送され、2時間後に蘇生した途端、医者に重傷を負わせ窓ガラスを破って逃走。自宅でお茶漬けを食べているところを取り押さえられたという伝説を持っている。

 構成員2000人を誇る関東狼仁会は、有賀の一声で一斉に動き出す。頭が良いだけではこうはいかない。その力は、強さと、怖さと、悪さの成せる技なのだ。アヤセはそこに目を付けた。
 「ID市場」は、膨大な個人情報を流出させるネット犯罪であるが、この有賀組が個人情報を扱う全国の担当者を情け容赦なく恐喝する。担当者の家族、交友関係から財産に至る個人情報、いわゆる恐喝のネタは、古平から提供されるのだ。有賀組長いわく「ハイブリッド犯罪」である。
 有賀組の本領はそこだけではない。香港マフィアを通した中国とのパイプである。ID市場の入手した国民情報に、その辺りのクライアントは一体どのくらいの値段を付けてくるだろうか。国民の生活を奈落の底に突き落とすようなこの行為を、アヤセや古平と違い、有賀潤三は一点の躊躇もなく実行する・・・だろう。

 どうしようもなく悪い悪役をもっと見たい。悪くなればなる程気持ちのいい悪役を。
飯山の有賀潤三を、私は早く見たい。

 byicon06 モンキリ王子


  

2016年07月18日

銀鼠奇譚 ⑩ 古平


 私は決して日本の官僚に対して疑念を抱くものでも、恨みを持つものでもありません。どちらかといえば信頼をしているし、同情さえしている方である。しかし、犯罪ドラマには古平のような小悪党役が不可欠なのである。これも勿論、「王道」である。


 ロックンローラーであるコダが演ずる、良心を金で売る高級官僚役は、正直言って私も見てみたいと思った。


 今回、銀鼠が巻き込まれた事件は、巨大ネット犯罪「ID市場」。これに関しては前に書いたが、古平はID市場に流出させる国民データに関するキーパーソンである。ネット上に存在する情報は、扱う人間に悪意と知識があれば完璧に守ることなど出来ないのではないかと、私は想像した。だとすれば、どこの誰が国民の情報を扱っているのか。これこそトップシークレットではないだろうか。この人間を金と暴力によって服従させれば、人知れず情報を流出させることが出来てしまう。

 古平はこんな重要なデータを、泥棒一門のアヤセと暴力組織有賀組に渡してしまう。しかも、そう重大な責任を感じていない。なぜなら、アヤセが通じている人脈は古平よりも遥かに上。古平はその見えない大物からの命令で動いているに過ぎないからである。この命令を断るという選択肢が彼には無い。古平は、上司の命に忠実に従う官僚の習性と、アヤセからの巨額な礼金の魅力で動いているのだ。
 同じ悪事に加担していながら、上司の影が見え隠れするアヤセには媚を売る。有賀組長には恐れつつも、腹の中では人間のクズだと見下している。古平は嬉しくなる程の、クズの中のクズである。

 さて、バンドを率い、曲を作り、ギターをかき鳴らして唄うロックンローラーのコダが演ずる悪徳官僚。想像以上のハマリ役だった。今回出演していない新ショットガンの社長を演じた石井ターもそうなのだが、音楽を作り演奏する者は表現の肝を身に着けているような気がする。上記の人物像を話すと、ザックリとだがちゃんと役人を演じて見せた。彼のいい加減さも、責任放棄する小悪党ぶりが出ていて、今回ばかりは役にピッタリとはまっていた。

 くどいようだが、私はキャリアの高級官僚に知り合いはいないし、何の恨みも持ってはいない。劇が面白くなるようにとあれこれ古平を描きつつ、こんな役人がいないことを願わずにはいられなかった。
 劇団の中でひとり頭抜けて長身の彼が演ずる小悪党。
飯山でご覧いただきたい。

 byicon06 モンキリ王子




  

2016年07月17日

銀鼠奇譚 ⑨ カタオカ


 実は、この銀鼠製作中に“空素”待望の新入団員が加わった。K・ジローである。
名誉のためにあえて書いておくが、彼は演劇経験ゼロのドッ素人である。さて、彼の初舞台をどんな形でスタートさせるべきか?ところが、この「カタオカ」という役を、誰に演じてもらおうかと思案していた、丁度そのタイミングだったのだ。


 石川一家アヤセの傍らには、いつもこのクールな殺し屋が寄り添っている。
これは一種ベタかもしれないが、王道でしょう。


 彼に生い立ちだとか、理由などというものは必要ない。言い換えれば、アヤセの一部・・・持ち物。
そう、アヤセの持つ武器なのだ。そう割り切ってしまうと、ショットガンでも書いているが、私の大好きな話になってくる。
 武器とは彼が携えている日本刀をはじめ、拳銃、ショットガンetc。単純に人を殺傷するためだけに作られた道具のこと。
その道具の持つ運命は、冷たく、悲しく、辛いものなのである。武器は手にする人間を変えてしまう。

 そうは言っても、今回の銀鼠で彼にそこまで要求してはいない。クールな殺し屋の冷たく、悲しく、辛い運命を表現できる俳優など“空素”にいない。ただ、中途半端に経験が有ると、逆に全くクールにならないという例が多い。カッコ付けているように見えてしまうのだ。しかもそれに自身は気付かない。
 本人には誠に申し訳ないが、最初本当にカッコ悪かった・・・そこからどうすればカッコイイ、クールな殺し屋に見えるかの戦いが始まったのだ。ちなみにいつも殺陣、アクションは姫鼠の永吉を演ずる小林茂男が見てくれている。二人で随分練習を重ねていた。立ち方、歩き方からだ。見ていた団員がいたたまれず口を出してくる。なお混乱するK・ジロー。よく本番にあそこまで持ってきたと思う。決してカッコ良くないが、カッコ悪くもないところまで来た。
 彼の一生懸命さが、最悪の「カッコ付けてる」感を消した。カタオカ役は彼以外に出来る者はいなかったのだ。これからカッコイイ役を貰った役者たち、気を付けた方がいい。本当にカッコ良いならともかく、カッコ付けてるとお客さんには意外とバレて失笑を買っていることもある。

 さて、K・ジローの苦労話はこれくらいにして、ドラマの中のカタオカだが、無感情に100%意のままになるカタオカがいることで、アヤセは極道相手に一歩も引かない。彼には極道以上に危険な匂いが漂う。ところがカタオカを従えていても、鼠の姐さん方には勝手が違う。カタオカがアヤセの持つ武器なのだとしたら、武器、即ち力でバランスを取れる相手と、取れない相手がいるということである。

 飯山公演ではカタオカも数段進化しているに違いない。よりクールに、冷たく、そして危険な存在になっているはずである。
多くの皆さんにご覧いただきたい。

 byicon06 モンキリ王子



  

2016年07月13日

銀鼠奇譚 ⑧ 石川一家アヤセ


 鼠一門以外にも歴史ある盗人一門は今もいくつか残っている。
石川五右衛門を始祖とする石川一家も、そんな盗人一門である。


 アヤセの祖父が、石川一家先代の親分。父親はアヤセが幼い頃に亡くなっている。


 先代は息子に一家を譲り、引退を考えていた頃だった。その息子が幼い娘を残し、突然命を落としてしまう。元々石川一家は押し込み(強盗)専門の荒っぽい盗人一門。数人で徒党を組み、豪邸になだれ込む。家人を縛り上げ、あっという間に金目の物を一切合切持ち去るのが石川一家の流儀である。こんな手口だから危険も多い。アヤセの父親はその死も公表されず、母親は直後に姿を消した。
 そしてアヤセは祖父である先代の親分に育てられ、その親分も数年前に亡くなったのだ。祖父である親分に蝶よ花よと可愛がられたアヤセが、残った子分たちと合う訳がない。子分たちは一家を去り、アヤセには一家の看板だけが残された。

 仲間を持たないアヤセが目を付けたのが、石川一家の持つ裏の世界の人脈である。先代の顔と女の色香、そして抜群の行動力で裏の人脈を操り、次々と大きな仕事(犯罪)を企てたのである。
 しかし鼠一門と圧倒的に違うのは、義理や人情、盗人としての仁義を教え込まれていないことだった。アヤセの仕事は鼠の姐さん方から見ると、堅気の衆に迷惑をかける悪党の仕業・・・ということになる。アヤセは何度も鼠一門の妨害で煮え湯を飲まされているのだ。
 しかし、それでも一向に懲りる気配がない。それどころか益々やり口も悪さも増してきている。今回は暴力組織と手を組み、高級官僚を買収し、過去に例を見ない巨大ネット犯罪「ID市場計画」を企てている。これには鼠一門が黙ってはいないだろう。
 
 鼠一門の持つノスタルジックな世界観と、ネット犯罪というリアルタイムな事件がこのドラマの核になっているのだが、その犯罪を企てているのが同じく伝統ある盗人一門の異端児という設定で、
ストーリーをシンプルにまとめている。だからこそ、アヤセの置かれた立場、設定には頭を悩ませた。
 そこで思いついたのが、七色鼠の生い立ちとの対比だった。七色鼠にあってアヤセに無いもの。
それが「仁義」であり、今の社会に足りないもの・・・だったのだ。

 今回の悪役ヒロイン、石川一家アヤセ。皆さんの目にはどう映っただろうか。まだ観ていない方は勿論、もう一度その辺を確認してみるのも悪くないのでは?
 飯山でお待ちしています。

  byicon06 モンキリ王子






  

2016年07月12日

銀鼠奇譚 ⑦ ID市場


 ここからいよいよ今回の悪役軍団をご紹介しよう。・・・と、その前に、
ストーリーを追う上で少々説明しておきたいキーワードがある。
それが、「ID市場」である。


 もちろん、長野市芸術館でご覧になった皆さんはID市場の概要はお解りだと思うが、私が台本作りの最中、PCの前で妄想したネット犯罪の正体を、ここで整理してみたいと思う。



 近年ニュースでよく見かける「個人情報の流出」という言葉だが、本当にそれが欲しいのは一体誰なのか?一番手っ取り早くそれを手に入れるにはどうしたらいいのか?更に、個人情報を何にどう使うのか?・・・と、考えていた。おや?いつの間にか私も犯罪者の入り口に立っているのでは・・・?
劇でもやっていなければ。

 先ずは、ハッカーと言うか、サイバー攻撃とかで情報を得るという方法が本当に合理的なのだろうか、という点だ。そんな面倒くさいことをしなくとも、扱う人間が悪意の知識をもって流出させようと思えば出来てしまうのではないかということである。これがいわゆる「ハイブリッド犯罪」。そういうことが出来ないようなシステムにちゃんとなっている・・・のなら安心です。これは劇の中のお話。
 次に、誰に何を売るのか、と、言うこと。手に入れた個人情報からその人になりすまして貯金をくすねたり、限度額までの買い物をしたりなんてしてたら間尺に合わない。欲しいのは個人情報が統合された国民情報ではないのか?ジグソーパズルを填め込むようなデータが存在したら?・・・これを欲しがるのは?・・・もう、国家規模の危機がそこにあるのです。
 さて、そんなこんなで手に入れた膨大な(ハンパな量じゃありません)流出データはどこに怪しまれずに保管するかです。USBに入れておいて?・・・冗談はさておき、自前のスーパーコンピュータを保有するなんてのはコスパの面でNGです。だから、元々似たようなデータを大量に扱うビジネスを起こしておいて、膨大なデータのジャングルに膨大なデータを埋もれさせる。そのために起業したのが、石川アヤセの石川データマーケット。これこそ通称「ID市場」なのだ。

 ID市場とはその名の通り、誰もが日常何気なく使っているネット上のIDとかパスワード。最近は一人でいくつも持っているはず。これを買い取ったり、販売したりするサイトのこと。普通考えれば気持ち悪いようなものだが、あまり深く考えず、ちょっとした遊びの金欲しさだったり、とりあえず不要なものがそれなりに金になると思えば、今の人たちははまってしまうのではないか。ともすれば、どんどん登録しては売りさばくような輩だって現われかねない。石川データマーケットはあっという間にデータのジャングルを構築したのである。

 もうお解りだと思うが、アヤセの企てた「ID市場計画」は、国家規模の個人データを扱っている人間のプライバシー情報。そして、その人間たちを暴力で恐喝、服従させる反社会的勢力。最後に、流出データの保管と販路。この三点セットで完結する。したがって、今回の悪役軍団は、盗人一門石川一家の孫娘、「石川アヤセ」。広域暴力団、関東狼仁会有賀組組長、「有賀潤三」。キャリア官僚、厚生労働省政策統括室次長、「古平幸雄」の三人になる。おっと、忘れちゃいけない。アヤセは感情を持たない非情の殺し屋「カタオカ」を、常に傍に置いている。

 ID市場計画という国家規模の悪事を、銀鼠、そして鼠一門は阻止することが出来るのか。
次回の「銀鼠奇譚」。飯山公演にご期待ください。

byicon06 モンキリ王子







  

2016年07月11日

銀鼠奇譚 ⑥ 七色鼠


 さて、鼠一門最後の一人は「七色鼠」。とは言っても彼女は現在破門中、はぐれ鼠なのだ。
一門とは別に、何かと銀鼠に付きまとってくる。ドラマ後半は主人公の銀鼠と、この七色鼠が進めていくことになる。


 七色の顔、七色の声を持つ女詐欺師・・・人呼んで「七色鼠のお咲」。本名は美咲という。


 彼女の生い立ちはドラマの中で語られているので多くは触れないが、大黒鼠の親分夫婦の養女として育てられている。七色鼠は政界・財界に蔓延る賄賂や裏金、大企業の表に出せない巨額な財貨を狙う女詐欺師。この仕事をめぐり親分と親子ゲンカ、破門に至ったのである。

 近年問題になっているオレオレ詐欺の組織化や、映画「オーシャンズ11」のように、詐欺師というとグループを思い出されるかもしれないが、この七色鼠はたった一人で全てを完結させる詐欺師なのだ。ターゲットを絞り、綿密に情報を収集し、密かに準備を重ねていく。声を変え、姿を変え、ターゲットの奥深くまで入り込む。搾取する金は被害届の出せない金。同時に暴いた悪事をマスコミにリークする。七色鼠に狙われたターゲットは奪われた金額よりも深い痛手を追うことになるのだ。
 七色鼠が利権、裏金に執着するのには理由があるのだが、これもドラマの中で語られている。そして今回のターゲットは石川アヤセの画策するネット犯罪、通称「ID市場」なのだ。破門されたとは言え、鼠一門で育てられた七色鼠である。一般人、姐さん方の言う「堅気の衆」に迷惑が及ぶ犯罪は決して許さないという、一門の血が騒ぐのである。

 七色鼠の存在は、このドラマを昔ながらの盗人一門を描いたノスタルジックなものから、現代社会の抱えるリアルな犯罪ドラマへと橋渡しをしてくれる。温かい人間関係を持った鼠一門は、銀鼠にとって居心地の良い場所である。七色鼠は銀鼠を、そこから否応なしに事件の核心へと引っ張り出してしまう。金にも話題性にも目を向けず、自分をアマチュアだと言い張る銀鼠が、彼女によって目の前の凶悪事件に関わることで、銀鼠自身も、そして観客も、何か大切なものを失いかけている現代社会を垣間見ることになる。
 銀鼠は、主人公ではあるが若々しいヒーローではない。定年後の第二の人生に盗人の道を選んだという発想は奇抜なのだが、何事にも慌てず地道で、無理をせず小さな喜びにふける、要するにただの頑固なオッサンなのだ。このオッサンをヒーローに仕立てているのが七色鼠なのである。

 一門から破門され、巨悪にたった一人で立ち向かう女詐欺師、七色鼠のお咲。
彼女と銀鼠の息の合ったコミカルなやりとりと、凶悪犯罪に立ち向かう大活躍を、飯山で是非ご覧頂きたい。

 byicon06 モンキリ王子




  

2016年07月09日

銀鼠奇譚 ⑤ 姫鼠の永吉


 経験も豊富で頼りにしているのだが、仕事、プライベートの都合で練習がままならない役者。
アマチュア劇団には必ずいるのではないかと思う。今回の小林茂男はまさにそんな存在だった。
 そこで任せたのが、この姫鼠の永吉役である。


 出番はほんの僅かだが、物語の重要な鍵となる登場人物。また、鼠一門の設定に大きく係わってくる役どころである。


 ここまでの私の記述を見ると、鼠一門は泥棒でありながら間違ったことは一切しない正義の集団のように採れるかもしれないが、そんなことはない。あくまでも犯罪集団に間違いはない。ただ、庶民の生活を脅かすような犯罪ではなく、不均衡に膨れ上がった財貨、または表に出せない裏金を、スルッと頂戴する。古い言い方をすれば、自分たちは「義賊」であるというプライドを頑なに守っているだけである。大人数の子分を抱えていた時代には当然半端者もいる訳で、出来の悪い子分の後始末に親分はずいぶん手を焼いていたものである。そんな名残りを姫鼠から感じ取って欲しい。

 姫鼠は鼠一門にとって異端児である。鼠は元来忍び込み、通称ノビの技術を伝承してきた一門である。ところが姫鼠は掏摸(スリ)なのだ。それも天才的な技術を持っている一匹狼。掏摸は元々集団で仕事をすることが多い。「箱師」と呼ばれる電車等、交通機関専門の掏摸は、縄張りも厳しく決められており、組織的に犯行を行うことでも有名だ。姫鼠は掏摸でありながら群れることを嫌ったのだ。
 鼠一門の仕事は単独行動が基本。大黒鼠の姐さんによると、酒好きだった親分がある日どこかの酒場から拾ってきたのがそのまま住み着いた・・・らしい。時代の取り残され、子分も離れていく中、最後の弟子となった姫鼠を親分はずいぶん可愛がったそうだ。そして永吉はユキと出会うことになる。

 ドラマの中では「伝説のお宝」というキーワードを持ち込むのが、この姫鼠である。しかし彼の存在は登場時間の短さとは裏腹に、鼠一門の世界観を表す上では欠かせないキャラクターなのである。

姫鼠の永吉。10分に満たない登場時間だが、ぜひ飯山では注目していただきたい。

byicon06 モンキリ王子



  

2016年07月09日

銀鼠奇譚 ④ 姫鼠姐


 最初、鼠一門は3人ともお婆さんにしようかと迷っていた。演じる細目雪をお婆さんにするのが忍びないというのもあったが、後半の展開を考えると、そこまで年寄りには出来なかった。

 昔ながらの盗人一門にあって、パソコン、ITに精通している姫鼠の姐さん。
こうして最高のキャラクターが出来上がった。


 年齢から言っても姫鼠は、大黒鼠の親分にとって最後の子分となるのだろう。裏の社会の中で静かに消えようとしていた盗人一門に、姫鼠の永吉と姫鼠姐ユキが、なぜ加わったのだろうか。


 現在鼠一門に限らず、伝統ある盗人一門はもう殆ど存在していない。盗人を単なる犯罪と考えるならば、こんなハイリスク、ローリターンな犯罪に手を染めるものなど今はいないだろう。まして伝統だ、しきたりだなどと言われれば尚更である。・・・と、いうことは、そんな社会の流れに乗れない人間、逆行する人間も中にはいるのだ。姫鼠の姐さんはそんな女性だったのではないかと思う。

 鼠一門の存在をネットで調べ、入門したいと訪ねて来た女・・・このドラマに出てくる姫鼠の姐さんならやりそうなことだと思う。口下手で人付き合いが苦手なのだが、頭も良く、何でもやれば平然とこなしてしまう。実に多彩な女性である。現代社会ではこの前半だけで判断されてしまい、後半の才能を見出されないという話をよく聞く。外界と比べ時間の流れが緩やかな一門の中で、姫鼠の姐さんの才能が花開いた。
 銀鼠が県警本部の資料室を破った一件でも、この姐さんが一枚噛んでいる。鼠一門には超一流のハッカーであり、最新のセキュリティーシステムをものともしない天才がいるのだ。ただし、情報を入手し、セキュリティーを無効にしても、実際に忍び込む人材がいなかった。銀鼠が加わるまでは・・・

 姫鼠の姐さんは隣町で小さなスナックを経営している。とは言っても、夫であり今は服役中の姫鼠の永吉が勝手に作った店である。酒好きでお調子者の永吉は、半ば自分で飲むためにスナックを買い取ったのだが、本人はシャバと刑務所を行ったり来たりの生活で、実質的には姐さんが切り盛りしているのだ。口下手で人付き合いの苦手な姐さんに客商売が務まるのか・・・と、思いきや、意外にそこそこ成り立っている。暗い店である。会話も無ければ笑いも無い。しかしそこが良いと言う常連客が足繁く通ってくれているのだそうだ。店内では客も店主もスマホを覗き込んだまま酒を飲んでいる。
 この無口なスナックのママが実は泥棒であり、更に犯罪コンサルタントとして県警から委託を受け、日夜ネット犯罪撲滅に尽力しているとは、誰ひとりとして知る者はいない。

 そしてもう一つ、姫鼠の姐さんには別の驚くべき才能・・・と言うか一面があるのだ。長野市芸術館でご覧の皆さんには既にお分かりだと思うが、飯山の公演を楽しみにされている方もいるはずなので、そこだけは伏せておきたいと思う。

 こんな姫鼠の姐さんの活躍を、飯山でぜひご覧頂きたい。

byicon06 モンキリ王子




  

2016年07月08日

銀鼠奇譚 ③ 柳鼠


 盗人一門に限らず、組織の安定には必ず優れたナンバー2がいるものである。
鼠一門には「柳鼠」がいる。

ドラマの中でも決して目立たず、大黒鼠の姐さんの横にはいつもこの柳鼠の姐さんがいるのである。



 今の鼠一門は、大黒鼠の姐さんが細々と守り続けている。
3年前に亡くなった大黒鼠の親分の晩年は、ずいぶん気弱になっていた。理由のひとつは盟友であり、一門のナンバー2「柳鼠」の死であった。
全盛期には数多くの子分を抱え、裏の社会でも一目置かれていた親分は、仁義を重んじ人情に厚く、言わば男気に溢れる一門の総帥であった。そんな大黒鼠の横にはいつも、頭脳明晰、冷静沈着、親分の影のような存在である柳鼠の姿があったのだ。盗人としての腕も一流で、子分の中でも柳鼠に憧れる者も少なくなかった。
 しかしこの柳鼠は若い頃から体が弱く、50代にして亡くなってしまう。丁度その頃は社会全体が大きく変わりつつある時代でもあり、盗人を取り巻く環境も様変わりしていった。柳鼠を亡くした親分は落胆し、子分も次第に減っていくのだが、ここで存在感を示したのが大黒鼠の姐さんをはじめとする一門の女性たちであった。命を賭けて親分を守り通した夫の姿をずっと見ていた柳鼠の妻は、大黒鼠の姐さんと共に鼠一門を引っ張っていくこととなるのだ。

 歳のせいか少しとぼけた言動の多い大黒鼠の姐さんを支える柳鼠の姐さんは、矍鑠とした老婦人である。目立たず出過ぎず、大黒鼠をコントロールしているようにも見える。また、歳の若い姫鼠姐の行動も柳鼠は上手く制御している。銀鼠にとっても本当は一番怖く、口うるさく、煙ったい姐さんなのかもしれない。
 劇中も目立たないながら、要所で大事なキーワードを口にしている。通には目が離せない渋い役どころで、ドラマに深みを与えているのだ。言うなれば、“空素”の劇が面白いのは柳鼠の姐さんのような存在をしっかりと創り込んでいるからだとも言える。要するに「大道」である。

 脇役もいい仕事をしている。柳鼠の姐さんのいい仕事っぷりを、飯山で是非ご覧いただきたい。

byicon06 モンキリ王子